ネコミミ魔法幼女とウサミミ大魔王 第二話 2-2
食べ終わった後、風呂に案内される。溺れそうなほど広い浴槽に入った。
「んにゃ! 何でお風呂で溺れるの!」
油断していたらツルンと足を滑らせて沈んでしまった。そのままお湯を飲んでパニックになり、アロエに助けられる。
「それにしても……見るたびに大きくなってるなぁ」
アロエは羨ましそうに見ながら、シャルロットの胸に手を伸ばす。
「こらっ、触るな!」
「いいじゃん、減るもんじゃないし」
「え、ちょっと、ひゃっ」
「うわ、マジで揉めるし。この巨乳幼女が! 巨乳幼女が!」
冗談を装って、アロエは本気で嫉妬をぶつけてきた。
「馬鹿、やめなさいよっ!」
「フヒヒ、触られて感じてるんだろ。このド変態が! もう濡れ濡れだぜ」
「お風呂に入ってるんだから当たり前でしょ、何言ってるのよ」
「ノリ悪いなぁ。自分だけおっぱいあるからっていい気になって……」
「なってないから。あんただってその内出てくるでしょ。多分」
同い年なのにズルイとわめくアロエを宥めながら上がると、やはりシンシアが脱衣場で待ちかまえていた。着せられたフリルたっぷりのネグリジェは、シャルロットの普段着より生地がしっかりとしていた。
そして案内された寝室は天蓋付きの大きなベッドがあり、素敵な夜にシャルロットは目を輝かせた。だがベッドは一つしかないのに、どういう訳かアロエと一緒に押し込められてしまう。シンシアは「おやすみなさい」と言って部屋を後にする。アロエとシャルロットは二人っきりになった。
「やったー、こんなに大きなベッドなら二人で寝ても余裕だね!」
「チェンジ」
「いや、チェンジとか認めないし」
そう言ってアロエは、シャルロットを毛布の大海原に押し倒す。すると海の中から短い悲鳴が聞こえた。アロエがめくり上げると、黒猫が薄く開いた目をこすって恨めしそうに見上げていた。
「モノクロ! どうしたの?」
「どうしたの、じゃないよ。やっと眠れたと思ったのに……」
モノクロにしては珍しく弱々しい声だった。
「そっか。モノクロ、昨日から徹夜だったんだ。ごめんね。もう静かにするから」
アロエはモノクロを枕元に置いて、自分もベッドに潜り込む。そして、もう一つの枕をバンバン叩いて手招きをする。
「さぁさぁ、シャルロットもカムヒア。熱い夜を過ごそうぜ!」
確実にメリオーラの弟子だった。どうせなら、もっと有意義なところを真似すればいいのに。しかし、隣に弱ったモノクロがいるのだから、騒がしいことはしないだろう。シャルロットも、今日は色々と疲れたので早く眠りたい。
「ふにゃー抱き枕ぁ」
アロエの隣に寝ると、すかさず抱きついてきた。抗議の声を上げようとしたら、何と、もう眠ってしまっていた。
「早っ」
「アロエは昔から寝付きがいいからね……何だかんだで緊張しただろうし……じゃ、ボクも寝るよ。おやすみ」
モノクロも夢の世界へと旅立っていった。一人残されたシャルロットは、ロウソクを消して、自分も仲間に加わろうとした。が、いざ眠ろうとすると、様々な思いが巡って一向に寝付けない。
立派な宮殿、豪華なベッド、高価なフルコースメニュー、泳げるほどの浴槽、上質の羽毛布団。おまけに隣にはアロエがいる。この状況は、とても幸せなものだ。だが、それでいいのだろうか。自分たちはお客様になるために来たのではない。
「うぅ……師匠ぉ……」
アロエが寝言を漏らした。
「師匠、おいてかないで……おいてかないでぇ……」
それは次第に嗚咽を含むようになり、閉じた目から涙がボロボロこぼれ落ちた。モノクロも異変に気が付く。アロエは赤ん坊が夜泣きするように大声を上げた。悪夢から救うため、名前を呼びながらその体を揺すった。目を開けたアロエは、全て夢だったと悟り一瞬泣きやむが、師匠がもうどこにもいないと分かり、シャルロットの胸に顔を埋めてすすり泣く。それを見てシャルロットまで両親を思い出し、顔をくしゃくしゃに歪めた。
二人が受けた傷は、そう簡単に癒えるものではない。
何故、自分たちがこんな思いをしなくてはならないのだろうか。何も大それたことを望んでいたわけではないのだ。シャルロットが欲しいのは、当たり前の日常。誰でも持っている風景。朝、眠いのを我慢しながら水汲みをして、お客さんの注文を取り、店の手伝いをする。暫くするとアロエが用事もないのに遊びに来る。お母さんはアップルパイを焼いてくれて、お客さんも一緒に食べるが、タダだと思って油断していると会計にしっかり上乗せしてしまう。アロエが「遊びに行こうよ」と言うと、お母さんはどんなに忙しいときでもシャルロットを店から追い出してしまった。そして面倒くさそうな振りをするシャルロットの手を引っ張って、アロエは釣りをしたり虫を捕ったり森を探検したりする。時々メリオーラさんに連れられて遠くにピクニックに出かけることもあった。アロエとメリオーラさんがシャルロットの家に晩ご飯を食べに来ると、お父さんは腕によりをかけて最高の料理を作った。逆にシャルロットたちがメリオーラさんにご馳走になると、見たこともない異国の料理を食べさせてくれた。どうしてかアロエがお泊まりすることになって、許可もなくベッドに潜り込んできてニコニコしていたが、その場合モノクロもセットで付いてくるので、シャルロットは一生懸命ネコをなで回した。するとアロエが嫉妬したように怒ってモノクロを取り上げ、胸に飛び込んでくる。騒いでいる内に眠くなってきて、気が付くと朝だった。そして同じような、しかしちょっとだけ違う毎日を繰り返している内に、少しずつ身長が伸びていく。
もう、あれは絶対に戻ってこないのだ。
「アロエ……行こうよ。あいつ等がいる場所は分かってるんでしょ。私たちは保護されるためにこんな所に来たんじゃない!」
眠れるわけがなかった。眠ったところで、アロエのように悪夢に襲われるだけだ。お父さんもお母さんも死んだのに、自分だけ生き残って、ドレスなんか着て幸せそうにしてしまって。そんなことが許されるわけがない。シャルロットは、復讐を実行しなければ何も新しいことをしてはいけないという強迫観念に捕らわれていた。
「シャルロット……」
アロエは頷かない。悲しい瞳で見つめてくるだけだ。言いたいことは分かる。自分たちは無力だ。シャルロットはもちろん、アロエだって悪魔には歯が立たなかった。しかし、それでも、何もしないというのは悪いことではないのか。
「メレディスのところに言って話してきなよ」
モノクロが口を開いた。
「彼は諸侯だよ。自由に動かせる兵力を持っているし、メレディス自身も魔術師だ。だから、これからクラークス侯爵としてどうするつもりなのか、聞いてくればいいよ」
そうすれば気が紛れるでしょ、とまでは言わなかった。もし、そんなことを言われたらシャルロットは即座に反発していたに違いない。それがモノクロの気遣いだと分かるまでの僅かな時間、少しだけ冷静になって考えることが出来た。
あの男が有能だなんて信じられない。だが、シンシアは信じていたし、モノクロは何か期待しているらしかった。会って話をしてみようか。たぶん、ジッとしているよりはマシだろう。今すぐ攻め込むなんて展開は、期待しても無駄だろうが……。











