ネコミミ魔法幼女とウサミミ大魔王 第二話 2-1
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アルフォンスは諸侯であるメレディスを前にしてもメリオーラ・アクアライトの死について語ることは無かった。それはアロエに対する心遣いなのだと分かったので、マイスターの優しさが嬉しかった。ただ、ソメイ湖の消滅と、それに伴って予測されるメーデル川の枯渇だけは伝えられた。
「ソメイ湖は湧水湖です。穴さえ掘ればまた元に戻るでしょう。早急に人員を派遣しなければなりません」
「それと今の内に川の水を貯めれるだけ貯めておかなきゃな。節水も呼びかけよう」
「是非お願いします」
「ああ。帰ったらマーティンに伝えるよ」
マーティンというのは、クラークス侯爵領の宰相である。まもなく七十歳を迎える白髪の老人だが、怠け者の諸侯に変わって行政の一切を取り仕切っていた。どうしてか、メレディスは仕事をしたがらない。侯爵であることそのものを嫌っているようだった。本来、貴族というものは人を殺してでもなりたいものなのに。
話題はアロエとシャルロットの寝床をどうするかという議論に移った。このアルフォンス邸は、ご覧の通りまともな人間が住める状態ではない。ならばメレディスの宮殿に泊まれば良いということになった。
「歓迎するぜ。部屋は幾らでも余っているから遠慮は無用だ。大人の女性が二人だったら、もっと歓迎したんだが……」
家を出る間際、アルフォンスはメレディスに封筒を渡し、耳元で囁いた。そして侯爵は「嘘、だろ」と呟き、それからアロエをバツの悪そうな顔で見つめた。無論、恋文であるわけはない。メリオーラの死と、悪魔の襲来に関する文章であることは明白だった。
だからといって、こっちを見ることはない、とアロエは思う。もう十七歳なんだから、少しは気を使えるようになればいいのに。それとも、他人からの善意を当然と思うアロエが子供なのだろうか。
クラークス侯爵家の宮殿は、荘厳の極みであった。シャルロットはソメイ湖と同じくらいの広さと羨ましがっていたが、実際はそんなものではない。大きな鉄の門から並木道が永遠と続き、馬鹿馬鹿しいことに宮殿へ行くためには、馬車に十五分も乗らなければならなかった。そしてようやく姿を見せた白亜の建物は、バラ園に取り囲まれ悠然と鎮座していた。今でこそ一諸侯に過ぎないが、クラークス家は五十年前までは王家だったのだ。当然、ここは王の宮殿であり、考え得る限りの贅沢を盛り込んで建てられている。
シャルロットは心ここにあらずといった感じで、フラフラと近寄っていった。
「こ、こんな物が実在するなんて……」
小さな村から出ることなく暮らしてきたシャルロットにとって、貴族の暮らしなど想像する材料すらなかった。現実に目の当たりにした宮殿が、妄想を遙かに超えて豪華絢爛であったため、圧倒されてしまう。
「さ、さ。行こうよシャルロット」
「え、でも、こんな、私なんか、入っていいの? こんなボロい服……ドレスとか着なきゃ、駄目、なんじゃ……」
「遠慮するなって。俺の家だぜ。ドレスを着たいなら用意してやるよ」
そこから先は、シャルロットにとって妄想の具現化だった。一生手が届かないと思っていた故に熱望した数々の物が、味わう間もなく次から次へと押し寄せた。
メレディスは一人のメイドを呼びつけると、アロエとシャルロットにドレスを見繕ってやれと命じる。メイドはその言葉を聞きながら頬を昂揚させていた。まるで話しかけられたこと自体を嬉しがっているようだった。
メイドはシンシアと名乗った。歳はメレディスと同じくらいだろう。頬のそばかすが少し目立つ。髪を三つ編みにした地味な顔立ちの、どこにでもいる普通の少女だった。シンシアは二人を衣装室に案内した。そこは色とりどりの服が残像のように奥へ奥へと続く、ドレスの回廊である。
「ここには女性用のあらゆる衣装があります。メレディス様ご本人の物より遙かに沢山あるんですよ」
そして、服のジャングルの一角に連れて行き、子供用はここだから好きなのを選んで良いと言った。シャルロットの興奮は筆舌に尽くしがたい。驚喜して舞い上がる姿をアロエにからかわれても、一向に気にならなかった。Aラインの水色のドレスに目を奪われていると、シンシアが瞬く間にシャルロットの服を脱がしてしまい着替えさせられてしまった。
「わぁお! シャルロットお姫様みたいだよ」
「ほぁ……これが私……」
見とれたところで、ナルシストとは言わせない。衣装に負けないプラチナの髪をくれた母親に深い感謝をした。アロエはスカートの中に三人くらい入れそうな黄色いドレスを着た。一息ついたところで桃色の髪の幼女がとんでもない発言をする。
「シンシアさんってメレディスが好きなのー?」
シャルロットもそれは気になっていたことだが、遠慮なく聞けるのは流石アロエだ。言われたメイドは「ひぃえ?」と妙な声を出し固まった。それから頬を染め、軽く俯いて「はい」と頷く。まるでアロエに愛の告白しているように見えた。宣言するシンシアが誇らしげに見えたのだが、何故かそれがシャルロットの癇に障った。
「あんな奴のどこがいいのよ。ただの女たらしじゃない」
自分でも驚くほど意地悪な声が出た。きっと、自分とメレディスの髪が同じ色なのが気に入らないのだ。母親から貰った大切な物なのに、どうしてメレディスも持っているのだろうか。
「確かにメレディス様は滅法手がお速いですが、不誠実な方ではありません。あの方は、断られることを前提にして声をかけていらっしゃるのだと思います。だって……私のことはお誘い下さらないんですもの」
それに……、と前置きして自分の生い立ちを語り始める。シンシアは幼いときに両親を強盗に殺されたのだと言う。前侯爵が統治していた当時のクラークスシティは麻薬が蔓延し、それに伴いあらゆる犯罪が飛び交う無法地帯だったらしい。しかし前侯爵が自殺し、息子のメレディスに変わってから状況は一変した。新たな侯爵は僅か九歳でありながら、麻薬組織を己の領土から完全に追い出してしまったのだ。そして治安を回復させ、身寄りのない子供たちのために孤児院を作り、仕事まで斡旋してくれた。シンシアのメレディスに対する感情は、崇拝に近いものだった。
「その功績だけでも、メレディス様は立派です。私だけではなく街の皆がそう思っています。だから、マーティン様にお仕事を押しつけて遊んでいても、メレディス様を悪く言う人はいないんですよ。それでも……本当はメレディス様ご本人に統治していただきたいと思っているのですが……」
そこで言葉は途切れてしまい、沈黙が流れた。シンシアは頭を振って無理に笑顔を作る。
「子供には難しい話でしたね。さあ、メレディス様がお待ちです。この宮殿のシェフは一流ですよ」
晩餐は、やたらと長いテーブルの端にアロエと並んで座り、反対側にメレディスが座った。絵画やシャンデリアはもちろん、壁や天井、絨毯や椅子、はては皿や燭台といった物すらシャルロットの目を奪い、どこをどう見て良いのか分からなかった。最後に正面にいるプラチナ色の髪の男に視線が行った。
「随分と生意気になったものだな。昔はメレディスお兄ちゃんと言って後を付いてきていた癖に」
「えぇ! 私、お兄ちゃんなんて呼んだことないよ。ずっと呼び捨てにしてたし。妹欲しいの? シスコン?」
アロエとメレディスが話し込んでいるが、まるで耳に入らない。シャルロットから見たメレディスは、生まれと顔がいいだけで、何ら実力のないヘタレだった。だが、すでに実績を立て、尊敬もされているのだと言う。それならば、何故その力を生かそうとしないのだろう。シャルロットはお姫様になりたくて仕方がないのに。
(それにしても、顔は本当にカッコイイな……やば、何かドキドキしてきた! えぇい、私はそんな安っぽい女じゃないぞ!)
気を取り直して子羊の肉を口に運ぶ。料理はとても高級な食材を使っているのに、父が作った物の方が美味しく感じた。











