ネコミミ魔法幼女とウサミミ大魔王 第一話 4-1


       4

 ステーキを十人前食べきったらシャルロットはメリオーラのものに。しかし食べきれなかった場合は逆にアロエがメルトエッタ家に差し出される。商品にされた二人はそんな話を聞いていなかったが、エリザベータは初めからそのつもりでいたらしい。メリオーラがそれに乗らないなどということは有り得ない。全く巧妙な罠だ。一年間食べ放題券はどこへいったのだろう。いつの間にやらオーディエンスも集まり、賭けが行われていた。オッズは四対一でメリオーラが優勢だ。
 聖暦二〇四一年四月七日、七時〇〇分。戦端は開かれた。
 この大食いチャレンジのえげつない所は、何と言ってもその時間制限にある。十枚で三十分ではなく、一枚三分なのだ。胃袋に余裕がある序盤に一枚一分で平らげたとしても、残った二分を貯金できるわけではない。かといってゆっくり食べても満腹中枢を刺激するだけだ。メリオーラはハイペースで迫り来る敵機を次々とナイフとフォークで処理していくが、四枚目から勢いが落ちる。
 アロエはステーキの厚さが一枚ごとに増していることに気が付いた。モノクロもそう言っているから確実だ。十人前と言ったにも関わらず、一枚の分量を変えるのはルール違反だ。しかし普段無敵を誇る師匠が、苦しそうに悶えているのが面白くて、アロエはそのままにした。大体、アロエにすれば、どちらが勝ってもシャルロットと一緒に暮らせるのだから関係ないのだ。
「頑張れ、ししょー」
 無責任にアロエが声援を上げると、メリオーラは死に物狂いで逐次投入されるステーキを撃破していく。シャルロットは現実逃避でもするかのようにモノクロの肉球を弄って遊んでいた。いよいよ最後の十枚目が現れたが、これは最初の物に比べて明らかに二倍以上の質量を持っていた。ところが肉体の限界に迫っているメリーオーラは、そのことに気付く余裕が無く、目をくるくるさせながら、必死に肉を突いていた。
「おほほほほほ! メリオーラ様、どうやらアロエちゃんは私のもののようですね。ご心配には及びませんわ。シャルロットのお嫁さんとして立派に育ててご覧に入れますから」
 まるで童話に出てくる悪の魔女のようにエリザベータは高笑いを上げた。
「あ……アロエは渡さない…………渡さないわ、アロエ、アロ、エ」
 メリオーラはうなされるように弟子の名前を口にして、巨大ステーキに立ち向かう。だが、今ですらその細い体のどこにそんなに収まっているんだという程食べているのだから、物理的に不可能なのだ。意地悪そうに勝利の笑いを上げるエリザベータの横で、メリオーラは絶望の嗚咽を漏らした。
「師匠……」
 自分をここまで大事に思ってくれている師匠の心に感激して、アロエは動いた。皿の上のステーキを鷲掴みにし、もう片方の手で口を開いて突っ込んだ。
「もがっ、が、あ……ろえ、ぉうえっ、げぅ」
「師匠、勝ってください!」
 タンスに服でも入れるように、メリオーラの喉の奥へと腕を突っ込み、ぐいぐいと押し込んでいく。ステーキが完全に見えなくなると、水を流し込み、両手で力一杯顎を閉じて、仕上げにガクンガクン揺らして底まで落とす。事が済むと、メリオーラは白目をむき、口から泡を吹いたが、ステーキは一欠片も戻さなかった。完食である。
「負けたわ……やっぱり、私如きではメリオーラ様には勝てないのね」
 エリザベータは膝を付きうなだれるが、しかし一番悲惨なのは父親の方で、全く知らない内に娘が他家のものになったと聞いて狼狽した。
「メリオーラ様。シャルロットを宜しくお願いします」
 返事はない。ただの屍のようだ。
 夜まで待ってもメリオーラの意識は回復せず、仕方がないのでメルトエッタ家に預け、アロエは帰ることにした。シャルロットを引き連れて。
「めんどくさいなぁ」
 おそらく、シャルロットは一泊したら帰るつもりでいるのだろう。アロエも、まぁそれでいいかと思っていた。エリザベータは口から魂を垂れ流しているメリオーラを抱きかかえて鼻歌を歌っていた。もしかしたら本当の目的はこちらだったのかもしれない。
「モノクロは帰らないの?」
「うん。メリオーラが心配だからね」
 師匠に心配なんて、と言いかけたが、エリザベータの目が、アロエに悪戯するメリオーラと同じ色をしていたので合掌した。
「あと、今朝も言ってたけど、明日からメリオーラとボクは遠出するから。行く前に顔出すけど」
「そう言えばそんなこと言ってたね。大丈夫、留守番は任せて!」
 シャルロットと一つ屋根の下で、他に誰もいないなんて最高過ぎる。もう、どうしてしまおうかとアロエは妄想して一人にやけ、シャルロットに不審そうな目で見られた。
「あ、あろえ〜〜」
 アロエがシャルロットを背中に乗せて飛び立とうとした間際、蚊が鳴くような声で師匠に呼ばれた。
「シャルロットがいるからって夜更かししちゃ駄目よ……寝る前に歯を磨くのよぉ……」
 ぐにゃぐにゃになりながらも心配してくれる師匠が妙に可笑しくて、プッと噴き出した。
「了解です。それじゃ、おやすみなさい」
 シャルロットも両親におやすみの挨拶をし、大げさな号泣に見送られて、二十時五十四分、ホッパースイーパーは飛び立った。
「何だか、本当にお嫁に出すみたい」
「多分、お母さんは本気だと思うけど……」
「ははぁ……シャルロットのお母さんも師匠に劣らず曲者なんだね」
「いつもは普通なのに、メリオーラさんが傍にいると変になるのよ」
 シャルロットの言葉には、どうしたらいんだろう、という悩みが含まれていたが、アロエには答えられない。知っていたらとっくの昔に実行している。ネコ好きのシャルロットは、モノクロのように頼りになる護衛を欲しがっていた。飲食店で動物を飼うことは出来ないので諦めたようだが、その辺のネコにはモノクロの真似など出来ないだろう。
「えへへ。それにしても、シャルロットと寝るのも久しぶりだね」
「えぇ……私メリオーラさんのベッドで寝る」
「じゃあ、私も師匠のベッドで寝る」
「じゃあ、私はアロエのベッドで寝る」
「じゃあ、私も自分のベッドで」「じゃあ、私は……」「じゃあ」「じゃあ」「ジャジャジャジャーン」
 などと言っている場合ではない。別々に寝たら何の意味もないではないか。
「いじわる言わないで一緒に寝ようよー」
「まぁ、そんなに言うならいいけど……」
「ツンデレ来ました。ツンデレ来ましたよ! もう、本当は嬉しい癖に無理しちゃって」
「やっぱ一人で寝るわ」
「えぇーん、ごめんなさーい」
 実のところ、アロエは一人で寝るのが苦手だった。と言うより、ソメイ村に来てからは師匠かモノクロのどちらかが必ず傍にいてくれたので、寂しい思いをする機会がなかった。二人ともいないというのは、もしかしたら初めてではないだろうか。村に来る前は、自分と同じ大きさのウサギのぬいぐるみを抱きかかえていた。四六時中引きづり回していたので、最後にはあちこちツギハギだらけになってしまったのを覚えている。確か、ラビ丸とかいう名前を付けていた。親しい友達にあげた気がするのだが、一体誰だったのかは思い出せない。
「ねえ、ラビ丸知らない?」
「は? 何それ」
 シャルロットではないだろう。ラビ丸と一緒にいたのはソメイ村に来る前の話だから、クラークスシティの誰かだ。全く顔も名前も出てこないのに、何者かと遊んだ記憶だけはある。なにぶん、六年も前のことだから曖昧だった。
 無理に思い出す必要もないだろう。今はぬいぐるみに頼らなくても、師匠やモノクロやシャルロットがいて、毎日楽しいのだ。
「あー幸せだなぁ。星も綺麗だし」
「ちょっと、ちゃんと前見て飛びなさいよ。暗いんだから……」
「なんですかーこわいんですかー」
「うるさいな」
 本当に夜の森は暗い。ほんの数メートル先までしか見ることが出来ない。村の中なら家々から漏れる明かりがあるが、湖の真ん中ではそれもなかった。
 その代わり、月と星の光が、遮る物もなく降り注いでいた。夜空が水面に反射し、上も下も宝石を散りばめたように輝き、宇宙を飛んでいるような錯覚すら覚えた。ホッパースイーパーが通った後は水面が波立ち星が揺れる。この不思議な景色の中を、シャルロットを背中に乗せて飛べるのだから、これを幸福と言わずして何を幸福とするのだ。

theme : 自作小説
genre : 小説・文学

comment

Secre

変態最強は…エリザベータ?(・ω・;)
ラビ丸を持っているのはウサ耳大魔王かなぁ…と思ってしまいました。

カテゴリがFAになってます(´・ω・)

No title

>>椿さん
本当だFAになってた!ご指摘ありがとうございます

変態界は広いので、きっと凄い変態がいるはずです!
ラビ丸はウサミミ大魔王のところですね。第五次降魔戦役でメリオーラが殺した先代魔王の娘さんです。
アロエの四歳の時のお友達でもあります。

プロフィール

マヒリ(らめぇの人)

Author:マヒリ(らめぇの人)


ネコミミ魔法幼女とウサミミ大魔王
プロローグ
1
第一話 第六次降魔戦役
1-11-21-31-4
2-12-22-32-4
3-13-23-33-4
4-14-24-34-4
5-15-2
第二話 小さな復讐者
1-11-21-31-4
2-12-22-32-42-5
3-13-23-3

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FAの主人公が幼女
更新休止中
ストレイド創造編
01話02話
リンクスパーティー編
03話04話
マザーウィル編
05話06話07話08話09話
10話11話
有沢温泉編
温泉0温泉1温泉2温泉3
温泉4温泉5温泉6温泉7
ラインアーク攻防編
12話13話14話15話16話
17話18話19話20話21話
22話23話24話25話26話
27話28話29話30話31話
決戦!オーストラリア編
32話33話34話35話36話
37話38話39話

登場キャラクター
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