新ジャンル「FAの主人公が幼女」36


       1

その若い整備員には、クレイドルに残してきた妹がいた。
丁度エレナ・ヘイズと似たような歳で、そのような少女が戦争をしているというのが信じがたかった。
その少女がパイロットスーツを着ていて目の前でネクストから降りてきても、スペースに余裕の無いACでは小柄な方がパイロットに向いているという理屈を知っていても、彼の感性は事実を容認し得なかった。
更に驚いたのは、抱き上げたときに伝わってきた熱だった。
パイロットスーツが異常な高温を持っていた。
これではコックピットの中は百度を超えているだろう。
確かにネクストの超高出力の副産物として生まれる熱を、全て排気することは不可能だ。
しかしコックピットへの流入は最小限に抑えられているはずなのに、いったい何十分連続で稼動させればこうまでなるのか。
「おい、大丈夫か。しっかりしろ」
整備員がエレナに頬を叩くと、僅かに目を開き、ふにゃふにゃと言葉にならない声を発した。
意識朦朧としており、こうなるまで戦わせた者へ怒りすら覚えた。
駆けつけた霞スミカに怒りの矛先を向ける。
もっと早くこの娘を連れて来れなかったのか、子供に銃を持たせるだけで恥知らずなのだからせめて守ってやるくらいのことは出来ないのか、と。
「……すまん」
彼はスミカとエレナの関係を知らずに吼えたため、素直に謝罪されるとは思ってもいなかったし、それが自分でなくエレナへ向けたものだとも気付かない。
ただ、リンクス様に殊勝な態度をとられたので、毒を抜かれそれ以上何も言えなかった。

       2

エレナは整備員に抱きかかえられ、スミカと共に医務室まで連れて行かれたが、その道中必死の抵抗を行った。
曰く、自分はいたって健康で医務室などへ行く必要性を感じない。ほんの少しの休憩と水分さえ摂取すれば即座に出撃可能であり、整備員は無駄な時間を浪費するよりもホワイトグリントの補給を行うべきだ。階段から落ちたのは単に考え事をしていたからであって、決して体力の低下を示すものではない。ゆえに今すぐ降ろして自分の足で歩かせろ。さあ降ろせ。今すぐ降ろせ。
そのような意味の文章を並べ立てたが、エレナの様子を見れば誰の目にも嘘であると分かるし、第一ふにゃふにゃしていて半分以上聞き取れなかった。
エレナは一刻も早く戦線に復帰しなければ、陣形が瓦解してしまうのではないかという不安に狩られていた。
自分とホワイトグリントの戦力は、どう控えめに見積もっても並のネクスト十機分の働きをする。
それを下がらせるということは、戦力半減以下であり、AMIDA打倒はまさしくエレナに掛かっていると理解していた。
一所懸命にエレナは訴えたが整備員もスミカも聞き流す。
否定しないということは、エレナの驕りではなく事実なのだろう。
そうこうしているうちに医務室へ辿り着いたが、そこは第二の戦場と化していった。
溢れた負傷者が廊下にまで寝せられ、辺りから呻き声が飛んでくる。
当然ベッドは全て埋まっており、ネコを寝せる余裕すらなかったが、エレナがリンクスだと告げると何の魔法か空席が出来上がった。
「嫌だ嫌だ。こんなのズルイよ」
そろそろ呂律も回復してきたエレナは不平を漏らす。
整備員が本来の職務へ復帰して行ったので、スミカがその集中砲火を浴びることとなる。
エレナのベッドには先ほどまで別の重傷者が寝ていたが、それをリンクスの為に退かしたのだ。
「それがリンクスなんだ。それに、自分で言っただろ。十機分の働きをすると。雑兵千人より、リンクス一人の方が大切なんだ」
命に優先順位を付けるという行為はエレナの軽蔑の対象であるのに、自らがヒエラルキーの頂点に立ち弱者を切り捨てた。
不快の極みである。
周囲の視線が咎めているように感じられた。
しかしエレナを最も錯乱させたのは、そういった思想云々ではなかった。
程なくして現れた女医が点滴の針を挿そうとし、それを迫り来る恐怖と認識したエレナは泣き叫んだ。
「うぁぁぁぁぁいやだぁぁぁぁっ! 注射いやぁぁぁぁぁぁあああ!」
あまりにも見っとも無いので、スミカはカーテンで覆い隠し、枕でエレナの顔を押さえつけた。

       3

ロイ・ザーランドは右翼の最前線で奮闘し、AMIDAのマザーウィル肉薄をほぼ完全に防いでいた。
彼のランクは7に過ぎないが、それは独立傭兵という立場がそうさせているのであって、実際にはウィン・D・ファンションを凌ぐと見る者も多い。
この戦いにおいても名声を裏切らない戦果を上げているが、ロイ自身にとってはAMIDAなど前哨戦に過ぎなかった。
エレナ・ヘイズがマザーウィルに着艦したことを確認し、ついにロイは動き出す時が来たと悟った。
まず、同エリアにいるリンクス、ウィス及びイェーイを背中からレールガンで撃ち抜く。
正確無比な狙撃により、彼らは誰に撃たれたかも分からぬうちに爆発四散した。
戦闘開始から二時間十七分にして初のリンクスの戦死者である。
これでロイが引き上げてしまえば、このエリアを守護するネクストはいない。
ノーマルなど一瞬にして駆逐され、AMIDAの雪崩が一挙にマザーウィルまで押し寄せるだろう。
そのままエレナ・ヘイズがマザーウィルと運命を共にすれば良し。
そうでなければ、混乱に乗じて倒す。
ロイはあの少女に何の恨みも無かったが、恋人とその中にいる子供を人質にされては、他に道は無かった。

       4

人類とAMIDAが雌雄を賭けている戦場から上空へ五千メートル。
そこから一機の輸送機が下界の混乱を見物していた。
最新鋭の光学迷彩を搭載し、レーダーはおろか肉眼による視認すら恐れないアスピナの最新鋭機である。
それにはアスピナの所長が直々に搭乗していた。
そこにそんなものがあるなどと、彼ら以外の何者も認識していない。
オーメルにさえ秘匿し、極秘裏に滞空している。
無論、物見遊山の為などではない。
「そろそろ頃合かな」
所長は、企業軍の右翼に穴が開いたのを見て薄笑みを浮かべた。
その場に真っ当な人間がいたら、そこから発せられる狂気に嫌悪感を覚えるだろう。
いたらの話であるが。
「所長、不測の事態です」
部下がもたらした情報は、彼を思案に駆らせる重要度があった。
戦場から最も近くにあるクレイドル03が、沈んだはずのステイシスに強襲されているというのだ。
「アリシア・ベルメールめ。このタイミングで何をするつもりだ」
「どうでしょう。ここは予定を変更し、ステイシスと戦わせて見ては?」
そう進言する部下の目は、期待で輝いていた。
所長もその衝動に駆られたが、自制し首を振る。
「ここは予定通り眼下へ投下する。アリシア・ベルメールへの挑戦は万全を期してからだ。今はまず実戦データが欲しい」
部下は残念そうな顔をしたが、不満を言うわけでもなく下がっていった。
所長とて、いや所長こそが最も打倒アリシアに燃えているのだ。
高度を上げ一か八かの勝負に出たい気持ちは誰よりも強い。
ステイシスに乗っているのは、間違いなく再生されたオッツダルヴァだろう。
アリシアならば死人を蘇らせる程度の児戯は、造作も無くやってのける。
しかし、アスピナの手にも同じカードがあった。
ラインアークの海底から回収した、オッツダルヴァのメモリーチップ。
そこからオッツダルヴァの意識を再生することにアスピナは成功したのだ。
そして、かねてより建造中だった新型アレサ、アンサングへオッツダルヴァ・チップを搭載し、最強の兵器を作る。
「よし、アンサングを投下しろ。手頃なネクストの首を三つほど狩ったら引き上げるぞ。あまり派手にやって人類に滅亡されても困るしな」

       5

アンサングのコックピットには、人間はいない。
ただシートの上に、人の頭部程度の大きさのボールが一つ固定されているだけだった。
その中にはオッツダルヴァのメモリーチップがあり、そこから記憶を読み出し、オッツダルヴァという人格をエミュレートする。
その戦闘能力はオリジナルと寸分たがわぬ物だった。
むしろ、このボールこそがオリジナルのオッツダルヴァであり、アリシアが再生した方こそが模造品なのかもしれない。
そして残酷なことに、戦闘能力だけではなく感情までも忠実に再生し、オッツダルヴァを鉄のボールに閉じ込めていた。
意識も記憶ははっきりしている。
ただ、手足はおろか人体の全てを失い、あらゆる感覚を奪われていた。
音も光も熱も、皮膚から伝わる質感も、一切全てだ。
考える塊と化したオッツダルヴァは、自分が最早人間ではなく、アンサングの演算装置の一部なのだと察するまで時間はかからなかった。
何せ眠気が訪れることもなく、二十四時間覚醒したままなのだから。
ご大層なエミュレーターは、発狂することすら許さず、オッツダルヴァは極めて健全な精神を保ったまま五感の無い世界へ幽閉された。
アンサングが起動している間だけ、オッツダルヴァに光が見えた。
機械のセンサーを通してのみ、オッツダルヴァは物を感じることが出来る。
だから、例え殺戮を命じられても出撃が楽しみだった。
それに言うことを聞いていれば、いつか肉体を与えてエレナの元へ返してくれると約束していたし。

theme : アーマード・コア
genre : ゲーム

comment

Secre

No title

吐き気をもよおす邪悪とはッ
なにも知らぬ無知なるものを利用する事だ・・・!
自分の利益のためだけに利用する事だ・・・。
企業連が何も知らぬリンクスを!!
てめーの都合だけでッ!

オリジナルオッツダルヴァちゃんの現状は考えうる限りもっとも残酷な運命のように感じます・・・
あぁなんなんだ畜生・・・どのキャラにも救いが思いつかねぇよ・・・
エレナのお兄ちゃんはどんな顔してあの世からこの様子を分析するんでしょうね・・・?

No title

おお、ポケモンとエヴァ序に夢中になってるかと思いきや。
新作お疲れ様です。

そこまでやるかアスピナ! ヘタすりゃ乙樽猫可愛がりのORCAメンバーすら敵に回す所業! ましてやエレナとの再会フラグまで全開。
…エレナ、気付くかな。付き合い長いし、戦闘機動なんかで察してくれれば…
更に、ステイシスがクレイドルを襲ってる事も知られたら…2人の乙樽の運命や如何に、ってトコなんでしょうか。

…にしても、ロイの依頼主(脅迫者)は何処だ?
最初は速攻でエレナが用無しになっただろうアスピナかとも思ったけれど、懲りないインテリオルもありうるし、有澤の台頭を懸念するGA上層部もありかなー、とかふと。
しかし、AMIDA殲滅しなきゃ人類存続も危ういのに、その要を殺そうとするなら、やっぱり我関せずなアスピナなんだろうか。
らめぇさん曰く『悪役にはうってつけ』(意訳)らしいしw
元独立傭兵の手練と元インテのエースを敵に回しかねない所業、というのもアンサングを抱えるアスピナなら問題無しとか思うのだろうか…

No title

うわぁ・・・アリシアさんドス黒いナリ・・・
まさかの妄想fA主人公の脳髄説がここでこんな形でオッツダル娘に・・・しかもチップ・・・

ますます続きが気になるじゃねぇか畜生!

No title

>>ヒプホさん
言ったはずだ!
私は、精神的強者を更なる力をもってして絶望の底に突き落とすのが趣味だとッ!

>>KOU-Dさん
ロイはインテリオルに雇われて参戦しているので、エレナ暗殺指令もインテリオルです
しかし、アスピナは何でもありなので、便利です
どんな非道を行っても大丈夫!

>>ランスさん
脳髄説って何ですかwww
続きは首を長くして待っていろ
冨樫が本気出したら俺も本気出す

これでシートの上に載った玉を描くだけで「オッツダルヴァ描いてみました」って言えますやった!

Re: タイトルなし

>>19さん
言った以上はやってもらいますよv-238
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マヒリ(らめぇの人)

Author:マヒリ(らめぇの人)


ネコミミ魔法幼女とウサミミ大魔王
プロローグ
1
第一話 第六次降魔戦役
1-11-21-31-4
2-12-22-32-4
3-13-23-33-4
4-14-24-34-4
5-15-2
第二話 小さな復讐者
1-11-21-31-4
2-12-22-32-42-5
3-13-23-3

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01話02話
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12話13話14話15話16話
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決戦!オーストラリア編
32話33話34話35話36話
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登場キャラクター
エレナ・ヘイズ オッツダルヴァ
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